理念と清掃 - エリアリンク株式会社

林尚道の
「時代を読む」

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VOL.77  2006年 05月号

理念と清掃

今回は、「理念と清掃」というテーマお話しします。まず、清掃がなぜ理念に繋がるかということをお伝えします。私も毎朝やっているのですが、当社ではトイレの掃除を素手でやっています。不潔だとか手が汚れるなどと思われるかもしれませんが、清掃は全ての基本だと思っております。例えば、八百屋さんのように商品を扱っている方でしたら、野菜や果物をきれいにしています。スーパーとかお菓子屋さんでも品物を扱っているわけですね。やはり商品がきっちりとしているというのは基本的な事です。基本だからきれいにしようということは皆さん教えるのですが、本当の意味での清掃の大切さは、教えきれていないと思います。

 私は、創業以来ずっと、清掃が大切という考え方を持っていますから、社員も毎朝掃除をしています。とはいっても、トイレの便器の中に手を突っ込むわけですから、初めは非常に勇気がいります。ところが、それを続けていくといろんな事に気がつくようになるのです。例えば、まずは汚れを取ろうと思って勇気を持って手を突っ込む、そこから始まって、だんだんと、もっときれいにしよう、もっと良くするにはどうしたらいいかと、道具や洗剤の工夫が始まり、多くの提案が出てくるのです。そうやって掃除をしていくと、まず瞑想に近い状態というのですかね、掃除が終わったときの気持ちよさと無心に物事をやるということ、道具の大切さがわかること、あらゆることを教えてくれるのがトイレ掃除なのです。

 そういう事を続けていると、その人にどんな変化が起こるかというと、例えば廊下にゴミがおちているときに自然と拾えるようになります。お客様のところにいって、こういうことをすれば喜ぶだろうからやろう、という発想ではなくて、自然と体が先に動くようになります。例えば雨が降ったときならタオルをすぐ出せるというように、お客様が困っていたらすぐに、頭より先に体が動くという事が身につくのです。

 自分でやってきて感じているのですが、「あ、この人はきちんと考えてくれている」とか、ちょっとした行動でも「この人は普段からこういうことをやっているな」という事は、お客様には必ずわかると思います。付け焼刃的に、営業的に、そういったことをやる方がたくさんいますが、それはすごく薄っぺらなもので、すぐに見破られてしまうものです。

 私も、若いときから、賃貸が決まらない、あるいは売買だったらなかなか売れないといったときに、必ず原点の清掃に戻りました。決まらない、売れない物件に行って、バケツから雑巾、スポンジ、掃除用具を全部用意して雑巾がけからやりました。雑巾がけで全体の掃除をすると、その物件の悪いところ、汚れているところ、ささくれがあって危ないところ、不具合等が全部わかるのです。そうすることによって、その物件を借りる方、買う方に近づけるのだと思います。やはり買った方、借りる方、そこで長く住まわれる方というのは、細かいところまで一番気がつくものです。貸す側、売る側になると、どうしても大雑把になってお客様の気持ちを忘れてしまいがちです。自ら体を動かして、その商品に愛着を持っていいものにしたいなと思うと、いろいろな所に気がついて、アイデアが沸いてきます。

 全ての基本はまず現場に行くことなのです。アイデアというのは、本を読んだりしていて、ぱっとひらめくように思っている人が多いと思いますが、そうではなく、現場に行って、ゴミを拾って、隅々まで全部片付けていくといろんな問題点に気づき、答えが出てくるのです。そういうことを、きちんと教えている会社が少ないような気がします。どうしてもテクニックや表面的なやり方だけを教えるだけになっているのではないでしょうか。清掃の意味をしっかりと教えてあげることによって、社員はいろいろなことに気がつくわけです。そして、様々な事に気づくようになると、多くの改善が出来るようになります。

 今、当社にも中途や新卒の多くの新入社員が入ってきており、教育に非常に力を入れなければいけない時期が来ています。教育というのは、専門の会社に頼めば、それなりのシステムをもって、教育してくれるのでしょうが、それ以前に、私は考え方を教えるべきだと思っています。例えば電話の出方で、初めてだとか慣れていないとかいう人もいますが、そんなことは関係ないと思います。例えば、名刺に電話番号を入れているということは、是非電話を掛けてくださいということですから、電話の出方が悪いのであれば、名刺から電話番号を消すべきだと思います。ですから、名刺に堂々と電話番号を入れているということは、ちゃんとした対応をしますということをアピールしているのです。そういうことを私は教えます。例えばお茶の出し方なら、お茶を出して相手が不愉快になるようだったら出さないほうがいいと思います。無愛想にぽんとお茶を出すのであれば、むしろ出さないほうがいいのではないでしょうか。ひざをついてこんなふうに出すんだとか、形ばかり教えるのも違うと思います。どうも世の中の教育では形のみを教えていて、相手のことを心から考えた対応というものを教えていないような気がします。

 私は、数字のあがらない部署があると、よくそこのスタッフとも話をします。あるスタッフの例ですが、他社でも同様の仕事をしている方がたくさんいるわけです。その仕事には、他社では二十歳くらいの方が従事しているのですが、そのスタッフはいろいろなキャリアがあって三十歳だった。そこで、同じ仕事をしているようだけど、あなたは二十歳の人がやっている仕事よりももっと上の仕事が出来るはずだよね、あなたが今まで三十年間生きてきた人生の経験をもっと活かすべきだよねと教えました。今では仕事にやりがいを感じ、接客、電話対応等、いい結果が出ています。

 私が上司として非常に大事にしている事は、アドバイスしてあげたら、最後まで見守ってあげて、必ず結果を出させてあげることだと思っています。アドバイスしたのに結果が伴わないと、その上司の話は聞かなくなります。人間は結果が出たときに喜びを感じると思います。ですから教育というのは単に教えてあげるとか、時間をとっているという事だけではなくて、その人が本当にやりがいが持てて、アドバイスした事が結果になってそれが自信になってということを何度も続けてあげる事だと思うのです。そういう考え方をもっていない上司や経営者が多いような気がします。

 通常は知識を教えようとしますが、まずは生き方を教えていくべきです。我々の理念は、世の中に便利さと楽しさと感動を提供することです。これも、現場にいる清掃のスタッフ、あるいはコールセンターのオペレーター、みんなが理念に心から徹するようになった会社が最後に生き残るだろうし、世の中が認めてくれるだろうし、そういう意味でも教育というのは重要だと感じています。

 私はあくまでも、心に響く、心が感じる、考え方というものを徹底的に教えることが教育だと考えます。マニュアル化というのは、人間の良さをある意味で殺してしまうと思っています。まずは平均的なサービスをしなくてはいけない、という発想でマニュアルを作ると思うのですが、そこまで人間を見くびらなくていい、逆に人間の可能性はすばらしいと思っています。掃除から始めて、それぞれの可能性を開花させてあげたい。私にも子供がいますが、できたらそういう考え方をもつ会社に勤めさせてあげたいし、やはり大事な自分の子供は、ちゃんとした考え方を教えてくれるところに入れたいと思います。我々もまだまだ至らないところがたくさんあります。口が酸っぱくなるまで言ってもわからない人もいます。それは私の言い方が悪いのかもしれない、教え方が悪いのかもしれない、それでも、もう一度チャレンジさせて成長させてあげたい。そういう、考え方のしっかりした会社、考えが浸透している会社、理念が浸透している会社、理念が本当に実行でき、本当にお客様に喜ばれている会社を目指したいと思っております。それは難しいことではなく、全ての基本は清掃だと思っています。皆さんも是非やってみてください。私もこれからもチャレンジし続けたいと思います。

代表取締役会長 林 尚道

代表取締役社長 林 尚道