一流と地道 - エリアリンク株式会社

林尚道の
「時代を読む」

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VOL.79  2006年 07月号

一流と地道

今回は一流と地道というテーマでお話しします。私は声も大きく元気ですので、多少派手に見られたり、結構贅沢していると思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、洋服や靴など、いいものを安く買うようにしています。例えば、服はデパートの社販で20%引きのときに買うこともありますし、靴は知り合いのところでバーゲンになったときにまとめて買う、ゴルフウェアなどは軽井沢で50%引きのときに買うなど、あまりお金をかけない生活をします。

 あるとき、知り合いがある有名な銀座の洋服屋で服を作ることがあったのですが、一緒に作ろうと誘われ、30万くらいの服を作ったことがあります。ですが、本当はそんなに高い服を作ることは嫌でした。なぜかというと、そういう服を作るとそれに合わせて時計や靴など、服以外にもいいものをつけなければいけなくなったり、贅沢に縛られてしまう感覚があったからです。

 そのようなこともあり、それ以来高い服を買わなかったのですが、今回たまたま建築設計の先生とホテルの研究を兼ね、一緒にヨーロッパへ行く機会があり、一流の話になりまして、「いいものを選ぶことも大切ですよ。例えば洋服だったら、生地を非常に大事にしている生地専門店発祥の服屋で買うとか、靴だったら靴専門店のものを買うほうがいいですよ。」ということを言われました。要するに、有名な名前が付いていて高ければ何でもいいというのではなく、その服がどのように作られたかということが大切であって、値段では無いというわけです。そう言われても、そのような贅沢はあまりしたくないと私も思っていたのですが、「この服は10年着られますよ。」と言われて買うことにしました。たまたまイタリアのアウトレットで、いいものを三分の一程度の値段で買うことができたのですが、自分自身で着てみて感じたことは、 やはり肌触りもいいですし、着心地がよく、気分もいいです。体型が変わるということは別として、洋服にしても1、2年で着られなくなくなるよりも、やはりいい服は長く使えるでしょうし、生地にしても色にしても着心地にしてもいいですし、そのように考えると非常に安いと思います。

 私がヨーロッパに行って感じたことは、家具を四代も五代も使う、いろいろなものが何代も使われ、昔の日本と同じようにものを丁寧に、大事に扱うという考え方が今でも息づいているということです。それが全て正しいというわけではないのですが、物をすごく大切にしていると思います。日本も、戦前までは物を非常に大切にしていました。例えば桐のタンスを何代も使うことなど、物の価値観が今と大きく違います。部屋を例にすると、狭い家だったかもしれませんが、見方によっては同じ部屋で食事をすることも、寝ることも、寛ぐこともできて、部屋自体の使い方が非常に効率よく、工夫されていたのではないでしょうか。ところが、戦後、使い捨ての文化が広まり、部屋も広くはなりましたが、不便になった気がします。収納に関しても、クローゼットとしてデザインはよくなったかもしれませんが、布団や大きいものが入れられるかというと、必ずしも入る大きさとは限りませんし、全体的に建物の使い方が下手になってしまったと思います。

 新しいものを買い、壊れたらまた新しいものを買えばいい、こういう大きく変わった日本の社会全般の考えは、一流とは呼べないのではないでしょうか。有名ブランドの名前が付いているものを持つことが、必ずしも悪いとは思いませんが、どうしても見られ方、見せ方、思われ方といった、人がどう思うか、どう評価するか、自分自身の満足度よりも、評価されることに満足感を感じるような文化ができてしまっているような気がしてなりません。

 我々はものの価値観をもう一度見直して、本来の日本の良さを考え直さなければならない時期が来ているのではないでしょうか。昔の日本の文化の良さ、お酒や和食なども含めて、その素晴らしさを見直し、皆が関心を持っていかないと、本当のものの良さがわからなくなり、薄っぺらなものになってしまうと思います。

 人が変わるというのは非常に難しいことなのですが、やはり地道であることが大切なのではないでしょうか。私もこれらが全て正しいとはいいませんが、毎朝「ありがとう」を千回言う、神棚に手を合わせる、真向法というストレッチをするなど、毎日ずっと続けています。また、京都にも度々行き、日本の文化に触れるよう努力しています。

 携帯にしても、パソコンにしても新しいものが頻繁に作られ、買い換えられ、一つのものを大事にするという文化をさらに忘れさせてしまうような仕組みができてきています。これは非常に危険なことだと思います。戦後60年経ち、完全に別の日本人になってしまった観がありますが、我々はもっと原点に戻り、このような現実を捉えて戦前の日本のよさ、地道さ、侘寂というものを見直し、日本人の素晴らしさを語り継いでいかなければならないと思います。

 少し抽象的な話だったかもしれませんが、重要な点だと思います。全てにおいて繊細かつ、いいものがわかるという感覚を持ち、本物がわかるという日本人に戻らなければいけません。本来の日本人の素晴らしさを目覚めさせるべく、色々な企画をしたいと思っていますし、それをどういう形で表現していくのか、事業として、生き方としてどう示していくのかということも、皆さんと一緒にやって行きたいと考えています。

代表取締役会長 林 尚道

代表取締役社長 林 尚道