市況の変化は少しずつ - エリアリンク株式会社

林尚道の
「時代を読む」

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VOL.209  2017年 05月号

市況の変化は少しずつ

  バブル崩壊やリーマンショックは、ある日突然、一気に状況が変わったと記憶していますが、次の経済危機は、音もなく近づいてくるのではないかと感じています。今の日本の状況を整理すると、金融機関はマイナス金利の影響もあり、相変わらず融資に積極的であり、不動産売買もまだまだ盛況にみえます。一方で、新築マンションの分野では、高価格帯の都心3区や、駅から離れた郊外では売れ行きが芳しくなく、一部のディベロッパーにとっては苦しい状況になっています。金融機関も以前と比較すれば、融資先の資産背景をよくよく見極めるようになってきたといわれています。私は、バブル崩壊やリーマンショックのように一気に変化が起こるのではなく、徐々に好況な範囲が絞られていき、じわじわと不況になっていくような予感がしています。次の不況は、気づかぬほどゆっくりと状況が変化し、問題が表面化する頃には既に「ゆでガエル」状態で、大変な試練を迎える企業、個人が多くなるのではないでしょうか。
 海外の状況もおかしくなっていると感じています。上海を例に挙げれば、普通に仕事をしている人でも住宅が買えず、家賃も高騰し、上海を離れて故郷に戻る住民が増えています。所得の何年分で住宅を購入できるかを計算すると、実に14倍にもなるそうです。これは、合理的とされる5〜6倍をはるかに超え、日本のバブル崩壊直前の23区の水準に近いというのですから、明らかに異常な状態です。中古住宅の価格も前年同期比で3〜4割も上昇しているそうです。普通の人が普通に住宅を買うことができない、借りることができない不動産マーケットはどう考えてもバランスが悪く、何かのタイミングで一気に変化が起こる可能性は否めないと思います。またトランプ氏がアメリカ大統領に就任したり、ヨーロッパ各地で極右政党が支持率を伸ばすなど、各国が変化を迎えている時代ですので、万が一、どこかで戦争が始まれば、それが引き金となって世界的な大恐慌が起きることもあり得るでしょう。
 国内の状況に話を戻すと、リーマンショック以降で日本の不動産市況が一番良かったのは2013年秋ごろだったと思われています。当社では、リーマンショック後、中断していた収益不動産の売買事業を2013年から再開し、2015年にかけて在庫の売却を進めました。2016年からは、不況を迎えた局面でのリスクを考慮し、市況の影響を受けにくい底地の分野以外の収益不動産の売買事業を中止しました。今後は基幹事業であるストレージに集中していく方向性ですので、不動産価格が下がる局面で悪い影響を受ける可能性は低いと考えています。むしろ、もし不動産不況が起これば、昨年からスタートした土地付きストレージの開発の分野では、ストレージに適した土地の仕入れがスムーズに行える可能性が高まり、大きなチャンスになることでしょう。
 日本においては、人口減少は忘れてはならないテーマだと思います。住居系の不動産は選別が進み、立地によって一層の二極化が予測されます。人が働き、企業が集まるエリア、つまりは東京を中心とした首都圏や、地方でも人口百万を超えるような都市のみ、今後も不動産の価値が維持されるのではないかと思います。非住居系の不動産でもストレージのような新しいサービスにはまだまだ伸びしろがありますし、社会の変化を悲観的にとらえるのではなく、その環境からビジネスチャンスを掴むことがこれからの時代に求められる能力でしょう。
長い歴史を振り返ってみても、社会は常に変化しますし、好況が続く時代など存在しません。アベノミクス以降の好況で従業員を増やす事業者も多いですが、新しい技術や柔軟な雇用形態を取り入れ、次の不況が訪れても少人数で効率的に仕事ができる体制を作っておくことが、不況の時代でチャンスを掴む前提になることでしょう。次の不況は、じわじわと少しずつ、やってくると思います。「ゆでガエル」にならないように、些細な変化を機敏に察知し、備えていきたいと考えています。

代表取締役会長 林 尚道

代表取締役社長 林 尚道