今後の日本の分岐点 - エリアリンク株式会社

林尚道の
「時代を読む」

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VOL.69  2005年 09月号

今後の日本の分岐点

◆ 経済激変の可能性がある

 今回のテーマは「日本経済は分岐点にある」です。経済は1〜2年の間に悪い方向へ激変し、今がその分かれ目であると、私は予想します。読者の皆さまはこの考えを不思議に思うでしょう。一見すると日本経済はバブル崩壊後の長い不況トンネルを抜け出したように見えます。土地は下げ止まり、企業の収益も改善しています。

 私は経営では徹底的に合理的な行動をします。同時に矛盾しますが自分の「勘」も大切にします。「今はおかしい」―。このように「勘」がささやくのです。

 私は1990年の春、「勘」をきっかけにバブル崩壊を予想しました。当時の私は不動産コンサルタント業を営んでいました。お客さまや友人に保有する不動産の処分を勧めたのです。「林さんは間違っている。土地は上がり続ける」と全ての人が言いました。しかし最終的には多くの人が私の忠告を受け入れました。

 結果はご承知の通りです。地価急落は’91年から始まりました。助言で多くの人の生活やビジネスを守れたことを、私は今でもささやかな誇りにしています。

 なぜ予想できたのか。思い返すと、私の目を曇らせる「欲」が消え、物事を素直な目で見ることができたためでしょう。’90年のある春の夜、私は鎌倉で宴会に参加していました。席には不動産業者が多く、誰もが「儲かった」と喜び、私も浮かれていました。その席に私の会社の社員が「交通事故で怪我をした」と連絡があったのです。心配しましたが「命に別状がない。軽症だ」との続報が入りました。ほっとして宴席に戻ったのです。

◆ 欲から離れて物事が見えた

 その時、突然、奇妙な感覚に捕われました。「こんなに儲かるわけがない。おかしくなる」という内面の声が響いたのです。不思議に思った私は翌日から不動産の現状を調べ直しました。そして当時の地価高騰の異常さに気付きました。あの夜に社員の安全を心配することで、自分に詰まった欲を忘れ、物事を素直に見つめられたのです。

 私は欲深い人間です。しかし50歳を越え、それを少しずつコントロールできるようになりました。エリアリンクを上場するまでの苦労、そして父親の死などの悲しみが、私の内面を変えたのでしょう。欲から離れると、現状は「おかしい」という感覚が湧き上がります。

 現在は運用難に直面したおカネが、金融機関や家計、企業にあふれています。おカネはエネルギーです。「入口」があれば儲かる「出口」を求めます。今は不動産と株に向かっています。

◆ 不動産が加熱している

 不動産市場が過熱しつつあります。全体でみると、上昇ばかりではなく、下がった土地も多い。そのために深刻に受け止める人が少ないのです。今は「平均で見る」と答えを間違えます。東京の一等地で、昨秋から地価が二倍になりました。これは異常です。

 不動産への資金の流れが現在はバブル当時と違います。不動産ファンドやREIT(リート、不動産投資信託)といった投資家の資金を集めるおカネの受け皿が作られ、そこから土地に投資されます。長期金利は年1%台ですが、リートは上場型で年3%以上、私募型では年7〜8%で運用されている。この利率差で資金が流れ込み、収益の高い不動産が買われ、上昇する循環が生じています。東京の一等地ではよい物件が、 ほぼ買い尽くされました。

 過熱した現場ではおかしなことが生じています。おカネが集まったので、とりあえずリートを作る。収益を深く考えずに投資をする動きもあります。おかしな行動をする場合に、人間は「理由付け」して、自分が勝手に作った理由を信じ込みます。「儲かるから、とにかく土地を買え」などの、奇妙な理由付けが不動産ビジネスの現場の一部で生まれています。

 資金は東京以外にも流れています。地方ではホテルの買収が積極的に行われています。エリアリンクはすでに昨年までにホテルの買収を行い、今は運営で利益を出しています。私たちは底値で買ったのですが、今買っても利益は少ない。それなのに、出口を求めておカネが流れ込んでいるのです。

 おカネは株にも向かうでしょう。株式市場は売買数が急増しています。私は2年以内に今よりも株価が2〜3割上昇する可能性があると考えます。1〜2年の間は、不動産と株が活況となるでしょう。いつの時代、どこの市場でも、価格上昇がピークとなった後で、個人や金融機関の投資がブームとなるためです。現在は個人のマンション・不動産投資ブーム、株ブームが始まりました。

◆ 金利上昇と国のリスクを懸念

 しかし過熱の後には必ず反動があるものです。下落の可能性は強まっています。そればかりではなく、金利上昇と国のリスクもあるのです。金利は今の実質「ゼロ」から数年の間に上昇に転じるでしょう。金利が上昇すれば不動産投資やリートは、他の金融サービスと儲かりやすさの競走に直面します。リートの選別が始まるはずです。そして、不動産投資で大量に借り入れをした投資家の財務状況は悪化する懸念があります。 不動産ビジネスでは、今後慎重な行動が必要になってくるでしょう。

 政府のリスクもあります。国と地方と合わせると、1000兆円を超える借金があります。返済できる可能性は少ない。さらに少子高齢化が加速しています。高齢者は若い人に比べ消費をしません。歴史が証明するように、子供の減る形で人口が減ると、国の経済力は必ず衰退します。こうした状況を止めるには国のリストラ、外国からの人の受け入れなど、日本の抜本的変革が必要です。しかし今の日本で大変革を成し遂げられる可能性は少ないでしょう。

 外部環境が激変する場合にどうするべきか。個人でも企業でも基本方針は同じです。「いいときに、最悪を考えて早めに準備すること」に尽きます。当たり前ですが実践はむずかしい。儲かると、人は欲で物事が見えなくなるのでしょう。

 お客さまと読者の皆さまが、激変を乗り越えることを願っています。自分の運命は自分で切り開かねばなりません。どのように向き合えばよいのか。私の考えを次回にお伝えします。

代表取締役会長 林 尚道

代表取締役社長 林 尚道