嫌な予感 - エリアリンク株式会社

林尚道の
「時代を読む」

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VOL.193  2016年 01月号

嫌な予感

今回は「嫌な予感」というテーマでお話しいたします。
 遂に、アメリカでは国内景気も回復してきたということで利上げを発表しました。秋口に話題に上がった中国の経済リスクも一旦は影をひそめ、世界的に好況であるかのようにみえます。そして日本国内に目を向けると、金融機関の不動産関連の貸出融資残高が9月末に過去最高の70兆円を超えるなど不動産市況は相変わらず活況を呈しています。
 一方、私はどこか嫌な予感がしています。新聞や雑誌の紙面を眺めていると何か違和感があります。株の購入や不動産の投資を勧める記事が目立っており、「この好況もそろそろピークに差し掛かっているのかな?」と感じます。
 私は40年ほど不動産業界に身を置き、バブル崩壊もリーマンショックも渦中の出来事として体験していますが、現在のように「景気が良い」と思われているときはリスクが高いと考えています。そういうときにこそ、一気に崩れるものです。
 一般の方々は消費税の増税や相次ぐ値上げで決して楽観的な景況感をお持ちではないと思いますが、一方では、ごく一部の方々だけが良い思いをしているようにみえます。不動産取引では物件を建てずに土地だけを売る例も見受けられます。「労せず儲かる」ことは決して良い傾向ではありません。全体的にリスクが顕在化し始める日も近いのではないかと思います。
 日本の不動産はまだまだ上昇の余地があるとみて、海外勢含め、積極的に投資をしている方々もいます。私は将来的な社会の変化を考えると、一部の希少性の高いエリアや物件を除き、上昇の余地は少ないと読んでいます。算数の問題と同じで足し算と引き算をすれば分かるようなことですが、人口が減っていく過程でもオフィスビルや住宅を供給し続ければ、全体の稼働率は下がるのが物の道理というものです。例えば、阪神淡路大震災後の復興事業がケーススタディになるかと思いますが、震災後の建築ラッシュで開発を進めた結果、需要と供給のバランスが崩れ、現在も不動産の価値にひずみが生じています。そんな事例もある一方で、現在も都市部を中心に建築ラッシュが続いているのです。
 どんなことも山あれば、谷があり、同じ状況がずっと継続することはありません。勿論、何も変化がなければ、それはそれで幸運なことです。しかし私自身は、2017年の消費税増税や2020年の東京オリンピックなど景気の境目になりそうなタイミングを頭に思い浮かべ、それまでは大丈夫だと思いたい反面で、不動産市況や需給バランス、金融機関の融資姿勢をみると、慎重になるべき時期に差し掛かっているという気配をひしひしと感じています。好景気のときこそチャンスを掴みたいと考える方も多いでしょうが、そこには大きなリスクもあるということを改めて強調したいと思います。バブル崩壊のときもリーマンショックのときも、ある日、金融がピタリと止まりました。生物は血流が止まれば死んでしまうように、経済の血流ともいえる金融が止まる影響は計り知れません。不動産売買を生業としている企業は、成長を遂げていくためには、どんな市況でも売買を休むことは難しいものです。金融が止まった瞬間にそういった企業のリスクが一気に顕在化することは容易に想像できます。
 リスクに備えるため、市況に応じて「売り、買い、休む」というサイクルで経営することを常に考えています。「休む」時期をどう過ごし、何をするのかが、経営者にとって重要なポイントです。「休む」時期でも事業を継続していくためには、低コストを実現しなくてはいけませんし、効率の良い少数精鋭の組織を作るため、人材教育にも力を入れなくてはなりません。アクセルを踏みながらブレーキを効かせ、成長を遂げながらもリスクに備えていくのです。やるべきことは本当にたくさんあります。年初のこの「時代を読む」は厳しい内容になりましたが、もうすぐ顕在化するかもしれないリスクに備え、今こそ万全の準備を進めていきたいと考えています。

代表取締役会長 林 尚道

代表取締役社長 林 尚道