想いの重要性 - エリアリンク株式会社

林尚道の
「時代を読む」

  1. HOME
  2. >
  3. 時代を読む

VOL.50  2004年 02月号

想いの重要性

今回は「想いの重要性」をテーマにお話ししたいと思います。常日頃から世の中がマニュアル化し、何でもかんでもが形式に囚われていると感じていますが、私は経営をするにあたり、「想い」ということに常にポイントを置いております。

 まず身近なところからお話しますと、電話対応におきまして、当社は特にはこれといった電話応対のマニュアルは用意していません。どういうことを教えているかといいますと、「とにかく気持ち良く出るように」ということのみです。お客様から電話がかかってきた時に、明るく気持ちよく「当社に本当に良くお電話をかけてきて下さいました」という気持ちをもって出ることによって、お客様が「ここの会社に電話をして良かったな」と思って頂けることが重要と教えております。電話の出方が悪い社員には「自分の名刺から電話番号を消すように」と叱ることもあります。名刺に電話番号を載せているということは、「是非、当社に電話をかけてきて下さい」ということの表れなのですから、かかってきた電話に満足な応対ができないくらいなら、電話番号を載せないほうがかえっていいくらいだと教えております。

 また、お茶を出すということにおいても、形式としてのお茶の出し方は一切教えておりません。お茶を出すということにおいても、ご来社下さったお客様に「安らいで頂きたい」という気持ちで、心を込めて出すことが重要と教えております。ご来社頂いたことに対する感謝の気持ちを持って、一杯のお茶でほっと安らぎ、豊かな気持ちになってもらいたいという想いが重要ですので、単にお客様が来たから形式的にお茶を出すくらいなら、むしろ出さないほうがいいと教えております。

 いずれも形を教えるのではなく、想いを教えることに重点を置いているのです。実はこれは教わる人によって個人差がありまして、小さい頃からの親の教育が大きく影響しているのだと実感します。親の教育という点においても、形ばかりに囚われてしまうケースが非常に多く見られ、想いの重要性が教えられない親が増えてきているのは残念なことです。子供を育てる際も、我が子に「しっかりした大人になって欲しい」と心から願い、愛情を持って育てるという信念さえあれば、たとえ強く叱ったとしても、想いは必ず伝わるのだと思います。

 私も最近、タクシーに乗る機会が増えてきて、その際に運転手さんともお話しをすることが非常に多いのですが、運転手さんのお子さんには非常にいい方が多いのに驚かされます。色々な事情を抱えてタクシーの運転手をやられている方もいらっしゃいますし、この厳しい時代においては、お子さんの学費を払うために、奥さんと二人で働かないとならないということもあると思います。そういう状況下、子供にとっては一生懸命働く親の姿こそが教育になっているのだと思います。言葉ではなく、自分の為に、家族の為に一生懸命働く親の背中、姿勢というのが確実に教育となっているのだなということを改めて実感しています。

 こういうことはある意味教えにくいことですので、言葉だけでは中々伝え切れるものではありません。大人数を一つの教室に詰め込み、何でもかんでもマニュアルにそって画一的に教えるやり方は、戦後からずっと行われてきて今に根づいてしまっているのだと思います。昔は道徳の時間においてもかなり子供たちに考えさせ、議論させる時間があったように記憶していますが、今は、こういう時はこうするべきだというマニュアルばかりを詰め込んで、余り自分たちで考えて答えを出すということがなくなってきているようで非常に残念です。

 私なども正直申しまして、社員教育においては十のうち、九は叱って一褒めるかどうかといった有様で、それもいつも褒めるというところまでは行かなくてせいぜい「良かったな」と声をかける程度といった感じで、褒め方の非常に下手な男ではあります。しかしながら、それもただとにかく何とかしたい、育てたいといった一心で接してきているからか、社員も辞めずに定着しているのを見ると、きちんと通じているのかなとも思っております。

 社員の育て方ということに関しても、書店では色々な本が並んでいますが、私は社員を育てるということにおいては、とにかく「何とかしたい」「力をつけたい」「良くなってもらいたい」という想いを持って取り組んできた今までの経験をもとに実践しております。最近はこうしたほうがもっと育つなという確信に基づく、自分なりの方法論も見つかってきました。やはり重要なのは、社員をただ単に駄目だ、駄目だと言うのではなく、同じ叱るということにおいても本当に育てたい、良くなってもらいたいという想いが本当にあるかどうかということに尽きます。そういう想いをもってすれば必ず社員には自然と通じるものです。

 また、経営においては数字の達成ということも当然大切ですよね。但し、お客様を本当に満足させた結果が利益なのですから、責任者としてはそのことを徹底してチェックすることが求められます。数字を何としてでも達成させたいという想いは当然大切です。ただ、それだけでは目一杯になってゆとりがなくなってしまいますので、あくまでも先を読み、お客様が何を望んでいるのか、どうしたら満足して頂けるかという観点から、お客様に「何とかしてあげたい」という強い想いを持って各事業に取り組んでいくことが重要です。ただ、数字だけの把握ということですと、どうしても押し売り的な営業に陥ってしまいがちですので、それを防ぐ為にも今までお話ししました「何とかしてあげたい」という想いが何よりも大切だと思います。

 それからもう一つ具体的な話を致しますと、当社は「各事業社員一名」を基本とした配置をしています。これには想いが散らばらない、考えが散らばらない、他人のせいにしないという利点があります。自分の事業を受け持つことで、「頼りにされている」という責任感、自負を持つことが出来、その一方駄目だったら自分の責任だという緊張感を維持しやすいのです。自分が任せられた事業の中でどんどん成長していくわけですね。このようなやり方をすると当社のほとんどの社員は各自の力を発揮することができるようです。当然決して楽ではありませんが、こういうやり方のほうが各自の力を発揮しやすいのでしょうね。また、事業が大きくなると当然一人では負いきれなくなりますので、その場合はパート・派遣の方の力を借りながら事業展開をしていくというやり方をとっております。ずっと一人が責任をもって事業を切り盛りするのですが、一つの事業の立ち上げの時には必ず私も手伝って、一緒に立ち上げて、立ち上がった後は任せるといったやり方を続けております。はじめはどうしても私が戦略を考えるのですが、そういう環境の中で各自が育ってくると、自然とそれに対する戦略も考え始めるようになってきます。

 では、これらのことをどのような考え方を基に行っているかと言いますと、社員にはいつも受験に例えて説明をしています。皆さん一回は高校、大学など受験を経験していらっしゃるかと思いますが、例えば毎日寝ずに勉強しても落ちてしまった人がいるとします。この時に「受験には落ちたけれど、私は寝ずに勉強したのです!」と自分を正当化する人はまずいないですよね。本人がいくら寝ずに頑張って勉強したとしても、現実として落ちたことには変わらないわけですから。しかし、社会に出て仕事をするようになると、与えられた仕事ができなかった時、「私は自分なりに一生懸命やっているのです!」と主張するんですね。受験においてはきちんと自己責任ということを理解していて、勉強して受験をするのは他でもない自分自身ですから、駄目だったのは自分のせいという意識がどこかにあるのですが、いざ社会に出ると、できなかったり失敗したりすると自分以外のものに原因を求めようとする人が非常に多くなるのですね。当社の場合は一事業一社員制にすることで責任の所在がはっきりしますから、ある意味先程お話した受験生の感覚に近いものを持ち続けることができるのだと思います。当社では「一生懸命やりましたが、できませんでした」という会話は存在しないのです。また、会社としては、一担当者に任せることで、他でもない、自分自身の力によって成し遂げるのだという責任感を刺激するとともに、評価に関しても君の評価だよとはっきりと伝えてあげるということが重要なわけです。

 こういうことはなかなか会社という組織の中では実践しづらいというご意見もあると思いますが、当社は今でも少人数制を守っていますので、一事業一社員制を実践しやすい環境作りをしていると思います。当社は、毎年毎年その年の売上をゼロから積み上げていくというタイプのビジネスモデルではなく、今までのものに積み上げていく累積型のビジネスモデルを貫いています。また、会社を形成する社員スタッフ一人一人の力を積み上げていく為に見つけた私なりの方法論が、一事業一社員制なのだと思っています。当社における一事業一社員制と累積事業により、社員が成長することで各事業が一つの会社にも近い規模になっていくわけです。社員の成長とともに事業も成長し、自己責任もはっきりした環境の中で事業はどんどん積み上がっていくといういい連鎖が生まれるのです。

 当社のようなやり方の会社も珍しいのかもしれませんが、私がこうしてお話していることは、実は目新しいことは余り無く、場面場面においてその時々に合った具体的な事例に置き換えてお話をさせて頂いてきたことがほとんどです。数年前から色んなところで、こういう事業を行ったらいいですよ、とかこういうやり方をしたらもっとうまくいきますよ、などとお話しさせて頂いてきましたが、やったけれどやり切れなかった、続けられなかった方も多いようです。当社がおかげさまで着実に伸びているのは、数年前から現在にかけてずっと工夫し改善を重ねながらやり続けてきているということにコツがあるのだと思っております。とはいっても皆さん「やり続ける」ということが大変なんでしょうね。おそらく、これを読まれている方の中にはご自身の事業に苦労されていらっしゃる方も沢山いらっしゃるかと思いますが、どうせ苦労するのでしたら、「続けることの苦労」をなさってみて下さい。「続けることの苦労」を乗り越えた時に結果は後から必ずついてきます。当然その道中においては方向を見定めるということも必要になってくるかと思います。そんな時は当社をはじめ、他社なども見て頂いて、この方向ならいけそうだな、この方向なら市場性も良さそうだし、マーケットも十分見込めそうだな、と判断するのに使って頂いたらいいのではないでしょうか。頭であれこれ考えなければ答えの出ない難しいことなんて、実はそんなに多くは無いのですから、そんな風に方向を定めて頂けたらそんなに大狂いすることも無いと思います。そして、社員教育を含め、事業を育てることにおいても「これ」と決めたら想いを持ち続け、継続し続けることをお勧め致します。必ず結果はついてきます。一緒に頑張りましょう。

代表取締役会長 林 尚道

代表取締役社長 林 尚道